東京高等裁判所 昭和53年(行ケ)198号 判決
原告主張の審決取消事由の存否について判断する。
(原告の主張(一)の(1)について)
原告は、補正却下決定(成立について争いのない甲第三号証)がA引用例について、「ケーシングはシートメタルで形成されている。」と認定をしたのは誤りである旨主張する。
しかしながら、A引用例(成立について争いのない甲第六号証の一)には、ケーシング(i、i1)はシートメタルで形成されている旨が明記してあり、決定の右認定には何の誤りもない。決定はケーシングの内側には減音部材が取付けられていることを明らかにしており、原告が主張するように「ケーシングはシートメタルのみで形成されている。」としているわけではない。
(原告の主張(一)の(2)について)
原告は、C引用例においては、防音材はシリンダーブロツク及びクランクケースの表面に直接塗装固着されているものであつて、エンジン本体と間隔を置いて固着された囲い部分を有しているものではないのに、決定がC引用例について「この(註、防音材の)固着式囲い部分をクランク軸22、潤滑油管30等が貫いて外部へ引出されている。」と認定したのは誤りである旨主張する。
しかしながら、成立に争いのない甲第八号証によれば、C引用例のものは、シリンダーブロツク及びクランクケースの表面に直接に粘着性の防音材を塗装してこれを覆つたものであることが認められる。したがつて、右はエンジン本体と間隔を置いた一枚ものによる囲いではないが、防音材でエンジンを包み込んだものであるから、なお「固着式囲い」といつて差支えないものである。
そうであれば、決定がC引用例について「固着式囲い部分をクランク軸22、潤滑油管30等が貫いて外部へ引出されている」と認定しても誤りとはいえない。原告の前記主張は理由がない。
(原告の主張(二)の(1)について)
原告は、決定が「B引用例は補正後の発明の―固着式囲い部分(23、30、32)が音の直接伝導はさえぎるようにエンジンにじかに取付けられていること――に該当する」としたのは誤りである旨主張する(、、
成立に争いのない甲第七号証によれば、B引用例のものは、固着式の減音用囲いが防音用の部材を介してエンジンにじかに取付けられていることが認められるから、決定が「B引用例は補正後の発明のの構成に該当する」としたことに誤りはない。
原告は、補正後の発明のの構成は、「エンジンをすつぽり全部包み込む減音用囲い」であるにかかわらず、減音用囲いが「エンジンにじかに取付けられる」構成を採ることを内容とするものであつて、B引用例はこれを有していないから、「B引用例は補正後の発明のに該当する」としたのは誤りである旨主張する。
しかしながら、補正後の発明のの構成は、「固着式囲い部分が音の直接伝導はさえぎるようにエンジンにじかに取付けられる」というものであつて、本願発明は固着式囲い部分のみで「エンジンをすつぽり全部包み込む」ことを要件としているものではないから、B引用例のものがエンジンをすつぽり全部包み込むものでなくても、本願発明のの構成に該当するといえることは明らかである。しかして、「エンジンをすつぽり全部包み込む減音用囲い」という構成は、A引用例に示されているところである。原告の主張は理由がない。
(原告の主張(二)の(2)について)
原告は、決定が「C引用例は補正後の発明の
前掲甲第八号証によれば、C引用例のものは、シリンダーブロツク及びクランクケースの全体の表面が、防音材として、吸音材でできた非常に粘着性の高い塗装で覆われており、この防音材部分を貫いてクランク軸、潤滑油管等が外部へ引出されているものであることが認められるから、決定が「C引用例は補正後の発明の
原告は、C引用例は、エンジン表面に直接に貼り付けられた粘着性塗装を有してはいるが、そもそも本願発明にいう「囲い」を有するものではなく、そして、エンジンと囲いとの間隔を利用して遮音する技術的思想を有しておらず、また、吸気管や排気管等がこれを貫通して設けられる程度に、エンジンと囲いとの間隔を小に構成したものではないから、「C引用例は補正後の発明の
しかしながら、C引用例の防音材部分は、「減音用囲い」ということができ、その「囲い」は「固着式」であり、クランク軸、潤滑油管等が右「固着式囲い」を貫いて囲いの外へ引出されているから、決定がC引用例のものは本願発明の
(原告の主張(二)の(3)について)
原告は、決定は「A引用例、B引用例は補正後の発明の
しかしながら、減音材(例えば、フエルト)の内貼りは、高域の騒音を吸収することを目的とし、遮音効果をより高くするために施すものであつて、減音材の内貼りのない板であつても、それにより騒音源をすつぽり包み込めば、遮音の効果があることは、むしろ技術常識というべきであり、右のような理由から、A引用例におけるパネルが減音材で内貼りされていても、なおそれは本願発明との対比上「一枚ものの減音用囲い」と言うことができる。また、本願発明の明細書によれば、本願発明の囲いは固着式のものと、簡単に取外せるものとから成つており、それらの囲いが全体としてエンジンをすつぽり包み込むようになつており、単一の板自体でエンジンをすつぽり包み込むことを要件としているものではないところ、本願発明の
(原告の主張(三)について)
原告は、決定が「補正後の発明の第一番目の発明は、各引用例記載の技術を寄せ集めたものに相当し、効果もそれらの各技術のもつ効果の総和を出ない」としたのは誤りであるとし、遮音、放熱性、エンジン全体を小さくし得る点において、本願発明は各引用例の総和によつては得られない効果を奏する旨主張する。
しかしながら、各引用例には決定が摘示するような技術事項が記載されており、本願発明は右技術事項及び周知の技術事項に基づいて当業者が容易に構成し得たものであることは、決定のいうとおりであると認められるところ、本願発明の効果もその構成から生ずる通常のもの、すなわち、各引用例のものの奏する効果の総和を出ないものと認められ、本願発明が各引用例の記載からは予測し得ない特段の効果を生ずるものであるとする証拠はないから、原告の主張は理由がない。なお、本願発明のものの遮音の効果については、明細書に「極めて良好に防音させる」という説明があるだけであつて、音源を遮音部材ですつぽり包み込んだ他のもの(例えば、A引用例)に比べて特段のものであると認めることはできず、放熱性については、B引用例(囲い部分がエンジン本体と間隔を置いて防音材を介してエンジンに直接取付けてある構造を採つている)のものに比し特段のものであるということはできず、さらに、本願発明の囲い付き内燃機関がB、C引用例のものに比し、特に小さく構成し得るということもない。
右のとおりであつて、原告の主張はいずれも理由がなく、補正却下決定に誤りはない。したがつて、本件審決における本願発明の要旨の認定に誤りはなく、これを前提とする審決の判断に誤りはない。
よつて、本件審決の違法を理由にその取消を求める原告の本訴請求を失当として棄却することとする。
〔編註〕 補正後の本願発明の要旨は左のとおりである。
2 前記1の項記載の発明において、出力軸50や通風器軸11といつた、囲いを貫くいろいろな軸が、エンジン表面との間に冷却用案内風路を構成する囲い51、34に連設の吸音筒(52、43)に収められてこの囲いを貫くようにされていることを特徴とする内燃機関。